ブログ番組「クラシック名曲アルバム」

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2009年元日開局。Youtubeにあるクラシック音楽の動画・録音を紹介。1日1曲、短くて聴きやすい名曲をお楽しみ下さい。

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組曲「沙羅」より“丹澤”(信時潔)

 信時潔(のぶとき・きよし、1887-1965)は、日本の作曲家です。キリスト教徒の家庭で讃美歌やオルガンに親しんで育ちました。東京音楽学校(現在の東京芸術大学)でチェロと作曲を学んだ後、同校の助教授、教授を勤めました。
 ドイツへ留学したこともあり、作風はドイツの古典派の影響を受けて簡素で重厚な雰囲気なものとなっています。また、山田耕筰の曲のような都会的洗練とは対照的な、明治人らしい武骨な気概が感じられます。

 本日は、彼の代表的な歌曲作品である「沙羅」をご紹介します。
 この曲は、東京音楽学校の同僚であった国文学者・清水重道の詩に作曲し、1935(昭和10)年に完成しました。下記の全8曲から成る組曲です。
1.丹澤
2.あづまやの
3.北秋の
4.沙羅
5.鴉(からす)
6.行々子(よしきり)
7.占ふと
8.夢
 組曲と言っても統一された物語性はなく、しばしば各曲は単独でも歌われますが、全曲すべてが全く虚飾なく、簡素で詩の本質に迫った曲で、全曲通して歌われることで作曲者の美意識に一層迫ることができます。
 2010年6月28日の記事では第3曲「北秋の」をお送りしました。本日は第1曲「丹澤(たんざわ)」をお送りします。神奈川県西部の山・丹沢の尾根から見た秦野の街の風景を歌っています。
枯れ笹に陽(ひ)が流れる、背に汗
うらうらと雲さへも、冬なのに
尾根長く檜洞(ひのきぼら)こえて響く澤おと
どの山も崩土(がれ)の色だけは凍(い)ててゐる

塔のむかふ町並み光らせて秦野(はたの)
見やる天城(あまぎ)も明るい草附き
雪の来ぬ冬山のくぼに 煙草吸うて見る
ひとり

(注)檜洞=檜洞丸、塔=塔ヶ岳(いずれも丹沢山地の峰の名)
 なおこの曲については、テノール歌手の木下保が1943年に以下のような解説を書いています。
(沙羅8曲全体について)
 日本人でなくては到達できない心境、たとえば静寂、寂寥と言った感情
 御能の表現の仕方を考えつつ、能とは違う技巧で
 日本人の現代の表現法というものを築き上げなければならない。
 西洋の歌曲は思ったことを100%表現するが、
 日本語の歌曲では思い詰めたある小部分を鋭く現して
 それで思いの全体をこめたものを感得させる。
(「丹沢」について)
 西洋音楽の形式からは離れているが、全体として統一感がある。
 旋律的には透明なしかも色彩豊かな母音で歌ふとよい。
 たとえば「うらうらと」の部分は、明るすぎず、暗すぎない、
 曖昧で丸みのある、輝いた発声で歌わねばならない。

 映像は、バリトン歌手・右近義徳さんによる歌唱の録音です。

  
【おすすめCD】
 SP音源復刻盤 信時潔作品集成
 戦前の録音を復刻した6枚組CD。合唱曲、独唱曲、小学唱歌、ピアノ曲、校歌など、信時の代表作をもれなく収録。現在ではほとんど演奏されなくなった曲も多く入っている貴重なアルバム。組曲「沙羅」の歌唱は木下保。
 信時潔歌曲集
 1995年、信時没後30周年&戦後50年の特別企画で発売された。組曲「沙羅」「鴬の卵」、名曲「海ゆかば」等を収録。歌唱は声楽界の重鎮であるバリトンの畑中良輔。絶版で入手困難だが、現在聴くことの出来る組曲「沙羅」の録音では最も優れたもので、まさに手本とすべき名唱。図書館等で借りられる人は是非一度聴くとよい。
 日本歌曲 山田耕筰歌曲(II) 信時潔の歌曲
 2008年発売の新しい録音。2枚組CDの2枚目が信時の作品。組曲「沙羅」「小倉百人一首」「鶯の卵」、万葉集の長歌に作曲した「不盡山を望みて」など27曲を収録。
 木下保指導による 混声合唱曲集 沙羅
 NHKのラジオ番組「おはようコーラス」(1978年)と「FMクラシックアワー」(1979年)で放送された、木下保指揮、東京放送合唱団の歌唱の録音。CDとしては珍しくリハーサル風景も収録。
【おすすめ楽譜】
 女声合唱組曲 沙羅
 男声合唱組曲 沙羅: 改訂新版
 信時潔独唱曲集
 
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by asapykadan | 2013-09-16 12:48 | 日本歌曲