ブログ番組「クラシック名曲アルバム」

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2009年元日開局。Youtubeにあるクラシック音楽の動画・録音を紹介。1日1曲、短くて聴きやすい名曲をお楽しみ下さい。

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 ドミートリイ・ショスタコーヴィチ(Dmitrii Shostakovich, 1906-1975)は、ソビエト連邦(現・ロシア)の重要な作曲家であり、20世紀における世界最大の作曲家の一人です。鋭い知性と感性、高度な技術が一体化した独自の作風により、特に交響曲や弦楽四重奏曲において秀逸な曲を遺しました。

 本日ご紹介するのは、ショスタコーヴィチの声楽作品のうち最も有名な、オラトリオ「森の歌」(Song of the Forests)です。「オラトリオ(oratorio)」とは本来、聖書を題材として独唱・合唱・管弦楽などで構成する演奏会形式の宗教的音楽劇のことですが、この作品はソ連の独裁者・スターリンの植林政策を讃える内容です。
 共産党当局から、大衆に分かりやすく人生肯定的な歌詞のついた楽曲の作曲を求められたショスタコーヴィチは、当時のソ連の緑化計画にヒントを得て、1949年夏にこの曲を作曲しました。同年11月の初演は大成功で、スターリンも大いに気に入り、翌年のスターリン賞第一席を受賞しました。世界各国語にも訳され、世界中の共産主義者たちがこの歌を歌ってスターリンを賛美しました。
 ところが1953年のスターリン死後、スターリン批判が吹き荒れると、このままの歌詞で歌うことはできなくなりました。1962年に、スターリン個人の礼賛ではなくソビエト共産党を讃える内容に歌詞が書き換えられ、以後の演奏はこの改訂版で行われるようになりました。
 ソ連崩壊後、共産党に迎合するこの曲は演奏の機会が激減しました。現在ではロシアや旧ソ連諸国はもちろん、欧米諸国でも演奏されることは稀です。しかしこの曲は、純粋に音楽作品として傑作であり、分かりやすく親しみやすく、忘れ去られるには惜しい作品です。スターリン(orソ連共産党)礼賛という忌まわしい内容は歴史の一部分として記憶に留めつつ、これからも聴き継がれていってほしいものです。

 「森の歌」は全7曲から成り、全曲演奏時間は約40分です。大まかな内容は下記のとおり。(1962年改訂版に基づく日本語訳歌詞はこちら
1.戦争が終わって
 冒頭で全曲共通のテーマ旋律。弦と金管による伴奏で木管によって演奏されるゆったりとした旋律。歌詞は、1949年版では偉大なる指導者スターリン個人を礼賛する内容だったが、62年版では単に「戦争に勝利した」という内容に替えられた。
2.祖国を緑にかえよう
 「祖国を緑にかえよう、という声が国中にあふれている」と歌う。
3.過去の追憶
 「かつてはヴォルガ河から空っ風が吹いてきて干ばつが起き、苦しめられた」という内容。
4.ピオネールたちは木を植えている
 「ピオネール」は、旧ソ連の児童組織。「子供たちが植えた白樺やリンゴ、楓などの木がすくすく育ってくれ」と歌う。児童合唱による愛らしい曲で、かつては日本の幼稚園などでも歌われた。
5.コムソモールたちは前進する
 「コムソモール」は、共産主義青年同盟。「偉業を成し遂げよう!旗を高く掲げよう!」と歌う。改訂前は「スターリングラード市民たちは前進する」という題だった。
6.未来の散歩道
 「植林によってステップの荒れ地が広大な緑に変わった、ソヴィエトの国の美しさ。未来の恋人たちを散歩させよう」と歌う。
7.讃歌
 「コルホーズ(集団農場)の畑の区画ごとに、青々とした森林地帯がある。我らがロシアの国に、我らが党に、全人民に栄光あれ!」と歌う。改訂前の歌詞は「偉大なる指導者スターリンに栄光あれ!」という内容だった。

 映像は、2006年にサントリーホールで行われた全曲演奏のライヴ録音です。ロシア人指揮者テミルカーノフの「オリジナルの歌詞に書かれていることが事実である」という方針により、歌詞はスターリンを讃える1949年の原典版で演奏されました。少々おとなしい演奏ですが、めったに演奏されない貴重なライヴ録音です(3つの映像を続けてお聞きください)。

「1.戦争が終わって」~「3.過去の追憶」途中まで
 
「3.過去の追憶」途中~「6.未来の散歩道」まで
 
「7.讃歌」
 

【おすすめ音源】
 ショスタコーヴィチ:オラトリオ「森の歌」(試聴可能)
 ソ連崩壊が近づく中、今後この曲の演奏がますます困難になると考えた指揮者フェドセーエフが、「なぜいまさらこの曲を」と渋る楽団や合唱団のメンバーを説得し、クーデター3日前の1991年8月16日から17日にかけて行った貴重な全曲録音のCD。上記映像のテミルカーノフ指揮の演奏と比べ、緻密さと迫力においてずっと優っている。
 NHKクラシカル スヴェトラーノフ/ソビエト国立交響楽団 1978年日本公演 [DVD]
 ソビエト国立交響楽団による1978年の日本公演のライヴ録音。NHKにはこの録画が残っていなかったが、一般視聴者が録画していたものが見つかり、DVD化された。
【おすすめ楽譜】
 スコア ショスタコービッチ オラトリオ《森の歌》 作品81 (Zen‐on score)
 全曲演奏のスコア(総譜)。
【おすすめ書籍】
 森のうた―山本直純との芸大青春記 (講談社文庫)
 岩城宏之著。学生の交響楽団でショスタコービッチの「森の歌」を演奏した経緯を綴っている。

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by asapykadan | 2014-02-09 16:27 | その他声楽曲・歌曲